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高知簡易裁判所 昭和45年(ハ)395号 判決

原告 宮脇淳

被告 国

訴訟代理人 河村幸登 外九名

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の土地につき、取得持分を五分の一とする所有権一部移転登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実および理由

第一、請求の趣旨

被告は原告に対し、別紙目録記載の土地につき、所有権移転登記手続をせよ、との判決を求める。

第二、請求原因の要旨

別素目録記載の土地は、もと訴外亡坂本金弥の所有であったが、同人は昭和二七年一月五日死亡し、その子である訴外沢村益雄・宮脇雅衛・柏井静枝・石本ユキ・坂本敏男の五名が右金弥の権利を相続した。原告は、昭和四一年一月五日宮脇雅雄から同人の持分の贈与を受け、同日坂本敏男から、同年八月二七日沢村益雄・柏井静枝・石本ユキから、それぞれ各自の持分を買受けて、本件土地の所有権を取得した。ところで、本件土地は登記がなされている。よって、その移転登記手続を求める。

第三、被告の抗弁の要旨

一、別紙目録記載(1) (2) の土地は、昭和三四年三月一〇日付で金弥の長男坂本敏男に単独相続登記がなされていたので、被告は同人を所有者と認め同年五月一三日同人と売買契約を締結したうえ、同年六月五日所有権移転登記を完了したもの、また、同(3) (4) の土地については、登記簿上亡金弥の所有であったため同人の相続人を調査し、長女坂本益雄・二女宮脇雅衛の両名が共同して相続していることが判明したので、右両名を被買収人として昭和二七年三月一三日売買契約を締結し、被告において債権者代位により右益雄ら両名の相続登記を経たうえ、同年一二月八日付をもって被告に所有権移転登記をしたものであって、何れも被告が正当な所有者から買収取得したものであるが、仮に、本件土地が原告主張の共同相続人全員の共有すべきものを、(1) (2) の土地について坂本敏男、(3) (4) の土地について坂本益雄・宮脇雅衛がほしいままに自己らのみの名義に相続登記を為したに過ぎないものであるとしても、民法一七七条は相続による不動産取得にも適用されるから、右相続登記をした者からさらにその権利を譲り受け登記名義を取得した第三者である被告に対しては、他の共同相続人は自己の持分を主張できないと解すべきであり、原告がそれらの者から各共有持分を譲受けたとしても、同様これをもって被告に対抗できない。

二、仮に、前記買収行為が無効であり当時被告が本件土地の所有権を取得していなかったとしても、右買収に際しては、地元世話人等を通じて関係者間で自主的に所有名義人を明確にさせ、書面上でもその旨を明らかに証明させたうえ、名義人と契約を締結したものであって、それが実体上の権利関係と符合していなかったとしても、被告担当者としてはこれを知り得なかったものであり、また、右のような買収方法は大量の買収であること等の理由により被告のとるべき方法としては止むを得ないのみか、関係者の自主的解決を尊重する意味においてむしろ妥当な方法といえるのであって、この点において被告には何ら落度はなく、被告による本件各土地の買収はいずれも善意無過失である。而して、本件土地は国道三三号線の道路拡幅工事用地の一部として買収したものであり、(1) (2) の土地については昭和三五年三月三一日、(3) (4) の土地については昭和二八年三月三一日工事を完成し、その頃より国有の道路として事実上使用を開始して、以来平穏・公然に占有を継続してきたものであって、それぞれ右使用開始後一〇年の経過により、原告の本訴提起前已に取得時効が完成したものであるからこれを援用する。

第四、判断

(請求原因について)

本件の土地がもと坂本金弥の所有であったことは争いがない。坂本金弥が昭和二七年一月五日死亡したこと、金弥の子は沢村益雄ら原告主張の五名であり他に相続人がないことは〈証拠省略〉によって認められる。従って、他に別段の事由がないかぎり、本件土地の所有権は金弥の死亡により右金弥の子五名が各五分の一の相続分をもって承継することになる。右五名による相続承継を否定すべき別段の事情は認められない。原告が宮脇雅衛から本件土地の雅衛持分の贈与を受けたことは〈証拠省略〉によって認められる。他の共有者からそれらの持分を原告が買受けたとのことについては、これを認めるに足る措信できる証拠がない。本件土地について被告所有名義の登記がなされていることは争いがない。

(抗弁について)

先ず一、については、〈証拠省略〉によると、金弥の相続人に遣産の分割が行われた事実はなく、特別受益の関係もないことが認められるのであって、(1) (2) の土地を坂本敏男が単独相続し、(3) (4) の土地を坂本益雄・宮脇雅衛の両名のみが相続したものであるとの被告の主張を肯認できる資料はなく、(3) (4) の土地につき被告と坂本益雄・宮脇雅衛との間に売買契約が成立したとの点についても、沢村・宮脇両証人はいずれもこれを否定する供述をしているのであって、右契約の成立を認めるに足る証拠がない。被告は登記の推定力を強調するが、右各証言にみられる情況と対比し、本件の場合、登記の記載のみをもって被告主張事実を認めることは困難である。また民法一七七条の適用に関する主張も、「共同相続人の一人が勝手に単独所有権取得の登記をした場合でも、他の共同相続人は右第三者に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。」ことは最高裁判所判例(昭和三八、二、二二民集一七、一、二三五)の示すところであつて、これも採用し難い。

二、については、本件土地は、被告側において買収に着手した当時、いずれも登記簿上の所有名義人は坂本金弥であり、当時金弥は已に死亡しその相続人の地位にある者は坂本益雄ら金弥の子五名であること=ひいて遣産分割等特段の事由のないかぎり右五名が本件土地の所有権を承継する関係にあること=が、被告側買収担当者において戸籍簿の調査により確認されていたことは〈証拠省略〉によっても推認されるところである。ところで、(1) (2) の土地についてその後坂本敏男の単独相続登記がなされ、(3) (4) の土地については坂本益雄・宮脇雅衛の両名を取得者とする相統登記が被告の代位によってなされたうえ、それぞれ右の者を被買収人として被告への所有権移転登記が経由されているのであるが、〈証拠省略〉によると、前示のとおり遣産分割・特別受益の事実のないことのほか、さらに同人らは本件土地について道路用地買収に関し交渉を受けたことすらもないことが認められるのであって、被告側担当者が如何なる調査・資料により(1) (2) の土地を坂本敏男が単独相続し、(3) (4) の土地を坂本益雄・宮脇雅衛両名が相続したと認めたものか、その間の具体的情況は明らかでなく、その認定につき被告側に過失がなかったことを首肯するに足る証拠がない。(前記各相続登記がなされるにあたって、他の共同相続人名義の相続分に関する証明書類が提出されたであろうことは〈証拠省略〉からも推認されるところであるが、右証明書がそれぞれ当該本人の意思により作成されたものか否かについては疑いがある。すなわち、(1) (2) の土地の買収に際し被告側担当者山岡泰一郎は、坂本敏男本人に会った記憶なく同人の登記承諾書は郵送をうけたと思うということであり〈証拠省略〉、一方、坂本敏男はアルコール中毒患者であり、終戦後まもなく家を出てその後昭和四〇年帰郷し原告方に奇寓するにいたるまでの間、時折帰高することもあったが殆んど県外を放浪していたものであること〈証拠省略〉、さらに、金弥の死後その遣産に関し、当時の村長水田広光、金弥が自創法による政府売渡しを受けた本件土地の元地主探田馬次ら地元有力者とみられる者がかかわりをもっていたこと(〈証拠省略〉、なお、〈証拠省略〉によると(1) (2) の土地の坂本敏男の単独相続登記申請手続は深田馬次によってとり運ばれたものではないかとの推測もされないわけではない)、それらの情況を沢村益雄ら相続人四名の前記証言と比照考察すると、被告のいう「地元世話人を通じての自主的解決」なるものの過程において、関係相続人への連絡確認を欠ぐ何らかの過誤があったのではないかとの疑念を生じるのであって、本件証拠をもっては、前記坂本敏男および、坂本益雄・宮脇雅衛の各相続登記のため提出されたであろう各相続人の名義の証明書類が、それぞれ当該本人の意思に基づき作成されたものであることを肯認するに十分でない。また、被告主張のように、大量買収のため被告側担当機関において事務処理上個々の関係につき直接調査することが困難であり地元の協力を必要とする事情があったとしても、右協力者の調査確認に過誤があるとすれば、そのような協力者に依存した被告側の処置に何ら落度がないとすることはできないであろう。)そうすると、被告の取得時効期間は二〇年となり、未だその期間は満了せず時効完成にいたらないこと明らかである。

(結論)

以上の次第で、原告が宮脇雅衛から取得した持分について被告の抗弁はすべて理由がなく、被告が本件土地について登記簿上その所有名義を有することは、原告の有する五分の一の持分権を侵すこととなり、被告は右持分につきこれを原告に移転する義務があるものというべく、本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余を棄却する。

(裁判官 中山勇)

別紙目録〈省略〉

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